奈々子と歩いた日 第8回

 札幌の街はすっかり冬景色になっていた。
 家族のようなひとたちと共に暮らす初めての冬だ。ただ、なにひとつ準備ができていない気がして、それは物というよりも心の準備かもしれなかったけれど、さまざまな不安を残したままに迎える心細さが、いつまでも僕の胸にわだかまっていた。
そんなある夜、奈々子は午前一時過ぎに帰ってきた。
僕と啓太は奥の間で眠り込んでいたのだが、いつもと違う様子にぼんやりと目が覚めた。ひそめたような男の声が奈々子の笑い声とともに聞こえてきたのだ。
僕は寝床から手を伸ばして襖戸を開けて、中の様子を見た。
若い男の姿が目にはいった。気弱そうな、どこかおどおどした感じの小太りの男が胡坐をかいて座っている。僕と眼が合うと、バツの悪そうな会釈をして頭をかいた。僕はそのとき開けてしまった口を、しばらく閉じることができなかった。
 男の名は富島和志といった。二七歳。僕より二つ年上だ。
 どうやら奈々子の馴染みの客らしい。きのう、実家で親と喧嘩して飛び出して来た。その足で『ロンシャン』にラストまでいて奈々子と飲みに出たらしい。帰る宛がないからしばらく置いてやってくれというのだ。開いた口はまだ閉まらなかった。
僕は何をどういえばいいのだ。なぜこの部屋に、馴染み客の男を堂々と連れてくることができるのだろうか。奈々子の破天荒な悪びれない態度は、なんだか可笑しさを感じさせてくれた。もう笑うしかない。僕は適当に毛布を富島に与えて、さっさと不貞寝することにした。富島と奈々子はしばらく酒を飲みながら起きていたようだ。
 あくる朝に起き出すと、富島はいなくなっていた。奈々子は僕の隣で啓太と寝ている。
 僕は仕事にゆく支度をしながら、部屋の中を見渡した。見慣れないスポーツバッグがストーブのそばに置いてあった。毛布はその横にきちんとたたんである。思わず心の中で舌打ちをした。
「あいつ、帰ったのか」
奈々子の背中に訊いた。
「ううん。仕事があるから出てったよ。また夜に来るかも」
「おいちょっと。なんであんなの。早く追い出せよ」
「そうはいっても。可哀そうだから」
 可哀そうなのはどっちだよ。
「とにかく、泊めるのはやめてくれよ。嫌だよ」
「うん。わかった」
 本当にわかっているのだろうか。奈々子の背中はすでに寝息を立てていた。
 会社に向かうクルマの中で、僕は現実を現実として受け止める自信を失っていた。今、僕の目の前にあるこの世界はほんとうに現実といえるのだろうか。何かが揺らいでゆく。
外は雪が降り積もっていた。
十五センチほどの雪が全体に覆いかぶさっていて、街を白で埋め尽くしている。僕のこころも冷たい雪で覆い隠して、何ものなのかもわからないくらいに消し去ってしまいたかった。
会社に着くまでには雪は止み、粉じんのために車道の両脇の雪は真っ黒に変色していた。泥だらけの汚らしい雪こそが、自分を覆い隠すにはふさわしいのかもしれない。
暗い気持ちで過ごすと仕事は全く捗らず、ミスを連発することにもなった。成績も近頃はがた落ちだ。支店長の渋い顔を見るのが辛い。
中島さんはいつもの通りひょうひょうと笑いかけて来た。
「やあ、辛そうだね。彼女とお子さんは元気かい」
 ひょうひょうと茶化すのが、このひとの良いところでもあり悪いところでもある。
「ええ。元気です。これからですよ、大丈夫ですって。任せて下さいよ」
こんなことで負けていられるか、無理に明るく笑って自分を鼓舞した。
すると、中島さんは急に力なく大きなため息をついた。
「ふうう。若いってうらやましいね。頑張って」
 なんだか拍子抜けした。彼の細い体がよりいっそう弱々しく見えた。
中島さんだって三〇代のくせに、まだまだ老ける歳でもあるまいに。いおうとしてやめた。

 仕事を終えて帰るまぎわに奈々子から会社に電話があった。まだ携帯電話は一般的ではなく、ショルダーバッグみたいな馬鹿でかいやつがようやく登場したばかりの頃だったから当然、持ってはいないし、会社に私用電話がくるのはよいのだが、緊急以外は遠慮してほしいものだ。果たしてその内容はというと、今日は非番で焼き肉を用意して待っているからと、妙に明るい声でいう。
用件はそれだけかよ。僕はなんだか嫌な予感がした。
部屋に戻ると、やはり富島が待ち構えていた。テーブルに向かい合った二人は赤い顔ですっかり出来上がっていた。相当な数のビール缶が転がっている。啓太は無邪気に積み木で遊んでいた。
 促されるままに箸をつけた焼肉は、ほとんど味がしなかった。ゴムでも噛んでいるような感触だ。むかむかした気持ちが込み上げてきた。
 ビールをガブ飲みした。
これは別に浮気でも何でもないし隠れてこっそり会われるよりは断然いいことだしむしろ人助けであり仕事の一環でもあるしこんなことくらいで目くじらを立てるような器の小さい男と思われるのは心外だしだからこそ奈々子も連れてきたんだろうしましてこの冬空に追い出して凍死なんかされたらもっと嫌だし。
だらだらと言い訳をつぎつぎと並べて自分を励ました。そうしなければ小さな食卓テーブルを鉄板プレートとともにひっくり返してしまいかねなかった。
なんだか悪酔いになりそうな気がして、いつまでも飲み続ける富島と奈々子をおいて僕はまたしても不貞寝を決め込んだ。
泊まるならお好きにどうぞ。もうあきらめました。富島だって話してみると悪気のない奴だということはまあ、だいたいわかった。好きにするがいいさ。
 奈々子には常識というか、道徳観といったものが欠落している。奔放な性格といえば聞こえはいいが、身近にいる者にとってはたまらない。はかりしれないストレスが溜まる。
奈々子が、だんだんとお七を演じる歌舞伎役者であるかのように思えてきた。図書館の図鑑に載っていた歌舞伎俳優だ。厚化粧に塗り込められた奈々子の正体は、実は男なのではないか。この世界は現実ではなく歌舞伎の世界なんだ、きっと。
けれど、そんな破天荒な自由さに憧れ、惹かれている自分がいる。だから、別れようという選択肢は持てないのだ。
 富島はその晩泊まってゆき、次の日には朝早く荷物とともに消えていた。それから姿を見せることはなかった。
その後の奈々子の話によると、あのままどこかに消えてしまい行方知れずなのだという。
富島と奈々子のあいだに、なにかある訳ではないのは熟知している。良客が一人減ったと悔しそうにしている奈々子には、悪気などこれっぽっちもないのだろう。
だけど。
僕は暗澹たる思いを引きずりながら、それでも仕事と生活の肩にのしかかる重圧をしっかり受け止め、自分を見失わないように必死だった。準備不足の冬支度を、ぶっつけ本番で切り抜けることに邁進したのだった。


 続く


では、二日間の投資の結果を報告する。

本日の札幌6レースは大荒れ、3連単が259万という大波乱だった。
軸馬のパンクショットは8着に沈んだ。こんなレースは無理だ。」
結果、土日一度も当たらずマイナス24,400円
これで総投資資金は
228,620円ー24,400円=204,220円となった。

本日、投資とは別に札幌記念にチャレンジし、
フィエールマン軸1頭3点流しの3連複で、1-9-10 1,260円を
3000円投資で1000円仕留めた! 
だが、投資とは別の話しだ。
じゃあ、なぜ報告する? 
すまん。
自慢したかっただけだ。

残り20万強の資金を出来れば年内に、元金まで戻したい。
果たしてそれが可能かどうか、最後まで見届けて欲しい。

では、また。


このブログを訪れる全ての者に幸あらんことを祈る

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